決断社史 - スタンス

決断社史のスタンス

1. 商売には栄枯盛衰がある

そもそも、大前提として、個々の商売(誰に何を売るか)は、ほとんどの場合、永続しません。あらゆる商売は特定の時代性のもとで発展するため、時代を取り巻く環境が変化して競争が激化すれば、長期的に利益率が低下して行き詰まります。古今東西、優良企業が絶えず入れ替わる理由は、商売に栄枯盛衰があるからです。

明治時代までの商売発展の象徴は「重厚な商家を建てること」にあった。だが、明治時代に繁栄した商家の大半は、その後ひっそりと消え去った。(写真:川越にて筆者撮影)

ところが、ほぼ全てのビジネスパーソンは栄枯盛衰の恐ろしさを過小評価しています。

例えば、日経ビジネスは1990年4月9日号で「読者が息子に薦める43社」というアンケート結果を集計し、「1位ソニー、2位ホンダ、3位日本電気、4位日本電信電話、5位日本興業銀行」という結果を記載しました。この事実は、大多数のビジネスパーソンが短期視点しか念頭になく、時代性や長期視点を軽視するため、結果として将来に禍根を残す恐れがあることを示唆しています。

ソニー - 独創製品の開発

1982年 売上高1兆円を達成

したがって、決断社史では、商売を取り巻く4つの栄枯盛衰のフェーズ(創業期→成長期→成熟期→衰退期)を時代性として念頭に置いた上で、「経営者がどのような決断を下したのか?」という事例を執筆し、ビジネスパーソンに長期視点の重要性を伝えることを狙いとしています。

決断にフォーカスする理由は、時代の流れにあった決断を下すことが、商売の栄枯盛衰とうまく付き合う方法だからです。逆に商売の栄枯盛衰を無視して、自分よがりな損得勘定に基づいて決断を下した場合、長期的には悲劇のトリガーになり、従業員の人生がメチャクチャになることもあります。

北海道炭礦汽船 - 夕張の悲劇

1978年 上場廃止・監理銘柄へ

よって、決断を軸に、長い時間軸のもとで商売を検討することは、意思決定者が時代性を捉える有用な思考訓練となります。なお「長い時間軸」の基準は産業ないし業界によって異なりますが、ここでは「最短20年」と規定しています。

2. フェーズ別に戦略は異なる

それぞれの商売のフェーズにおいて経営者が念頭に置くべき戦略テーマは異なります(もちろん例外もあります)。

上図:フェーズ別の戦略課題(筆者作成)

市場の創業期(導入期)には市場開拓が必須で、創業間もないベンチャー企業であれば資金調達も欠かせません。このフェーズで市場開拓に成功し、美しい戦略のストーリーが描けると、次の成長期のフェーズへ柔軟に移行できるケースが多くあります。

ピジョン - 哺乳瓶の研究開発

1962年 哺乳器の開発完了

市場の成長期は国内投資に加え、社員をまとめる組織設計が大きなテーマになります。この時期は売上高が急激に伸び、人員を積極的に採用することから、組織へのメンテナンスを怠ると採用市場で悪い評判を呼ぶことになるため、経営者は組織という「内の世界」の改革に乗り出すことが多いようです。

パイオニア - オーディオ→ビジュアル

1976年 中途技術者の大量採用

市場の成熟期には、未開拓の海外市場に注力しつつ、国内の合理化を推し進めることが散見されます。場合によっては、新事業の立ち上げ(多角化)もこのフェーズになると目立ちます。グローバル展開や新規事業というと、聞こえは良いですが、その背景には国内市場が伸びないという裏事情が見え隠れすることが多く、既存事業のフェーズが冬に近づいていることを示唆します。

東燃ゼネラル

1978年 新事業開発室の設置

そして、衰退期に差し掛かってしまった場合には、業態転換(誰に何を売るかを再定義する)か、めぼしい新事業がない場合は業界再編が大きなテーマになります。このフェーズにおける戦略的な意思決定は、人員削減を伴うことが多いため、例外なく悲劇的な様相を帯びます。なお、社内で利害関係が対立するため、体調を崩す経営者も少なくありません。

三井金属

1977年 国内鉱山→電子材料へ業態転換

このうち、日本の大企業が直面する課題は、主に3〜4です。大企業という言葉には安定的な響きがありますが、裏を返せば商売の戦線が伸びきっていることを示唆しており、商売のフェーズが成熟〜衰退に差し掛かっていることを意味します。このフェーズの課題に向き合う場合、決断社史の「業態転換」ないし「海外投資」の項目が参考になります。

キッコーマン

1973年 しょうゆの北米現地生産

他方、日本のベンチャー企業が直面する課題は、主に1〜2です。意外かもしれませんが、成長期のベンチャー企業が参考すべきは、日本の「過去」の大企業であり、特に組織設計を学ぶ際に有効です。歴史を緻密に振り返れば、今の日本の大企業の多くは、高度経済成長期に「実力主義」や「中途採用」を積極的に取り入れたベンチャー企業でした。今の大企業の「過去」を学ぶことは、次の世代を担うベンチャー企業に大きなヒントになり得ます。

ホンダ - 二輪&四輪への新規参入

1948年 藤沢武夫のスカウト

3. 世代を超えて意思決定を伝承する

世の中の「経営論」の大半は、企業の存続を是としていますが、決断社史では企業の存続を「是」としません。企業の消滅が悲劇的であることは間違いないですが、商売に栄枯盛衰がある以上、避けることが難しい場合もあるからです。将来を見据えて、知力を尽くして業態転換を志向しても、うまくいかなかった例は枚挙に暇がありません。

日本興業銀行 - グローバル展開

1975年 東大卒業生25名を採用

重要なことは、経営成果であることはもちろんですが、それと同様に過去の意思決定を次世代に伝えることも重要だと考えています。伝承がしっかりなされれば、たとえ、意思決定の結果が芳しくなくても、次世代の人間は「過去の教訓」という資産と、「時代はこう変わるんだ」という実感を手に入れることができます。そして、この資産は、次世代の人間が意思決定を行う際に大きな武器になるはずです。

したがって、長い時間をかけてビジネス界に「社史」という、一見役に立たない資産を広めていく所存です。